福岡高等裁判所 昭和26年(う)2131号 判決
貴金属管理法第十二条の規定に違反し主務大臣の許可を受けないでなした金地金の取引が無効であることは同法第十三条の規定によつて明である。従つて他人の委託を受けて同法第十二条の規定に違反し金地金を売渡したときは、その売買はもとより無効であるが、しかしそのことは売買代金の帰属に直接の影響を及ぼすものではなく、該代金は受託者が買主よりこれを受領すると同時に委託者に帰属するものといわねばならない。なぜならば、売買契約において定められた代金は単に金額が定つただけで不特定物であるから、売買契約自体によつてその代金が売主に移転するものではなく、いわゆる代金の支払により買主が特定の金員を代金として売主に譲渡することによつて移転するのであるから、売買契約が無効であつてもこれがため代金の支払としてなされた金員の譲渡行為が無効となるものではない。又強行法規に違反した売買であつても、その売買代金として金員を譲渡する行為が当然公序良俗に反する事項を目的とするものとはいえないから、民法第九十条によつてこれを無効とすることもできないからである。それ故受託者が委託者に帰属した代金を保管中不法にこれを領得するときは、委託者との関係において横領罪が成立することは勿論である。原判決の認定によれば、被告人は多々良晩苗から延金約七匁の売却方委託を受けたので、主務大臣の許可を受けないで該延金を武田辰治に対し代金八千円で売却し、その代金を保管中、内金五千円位をほしいままに自己の債務の弁済及び貸金に流用して横領したというのであつて右延金の売買が無効であつてもその売買代金の一部を不法に領得した被告人の右行為が横領罪を構成することは前段説明の理由によつて明であるから論旨は理由がない。